ベイブレードバースト神・アニメ第2期に関する報告書
〈概要〉
㊟「ベイブレードバースト・アニメ第1期に関する報告書」(前・後編)を未読の場合はそちらを先に一読されることを推奨する。
アニメ第2期はタイトルに神(ゴッド)を付加。2017年より1年間のクールでテレビ東京系列にて放映。通称神。(以下、「神」と表記 ※神の一文字では文章の中で解りにくいと判断し「」をつける)コミックスとしては6巻の後半から10巻の前半までが「神」の内容の範囲となる。なお、理解を進めやすくするために今回も随所で爆ベイとの比較を行なう。また、無印も引用するので御承知おき願いたい。
無印では学校でベイのクラブを設立した主人公・蒼井バルトが仲間たちと共に、地方予選から全国大会へと臨む姿が描かれた。舞台は学校及び日本国内の大会にとどまったが、今作からはプロブレーダーのチームでスペインの名門、BCソルに所属したバルトが世界を相手に飛躍する様子が取り上げられる。ちなみにBCソルでは所属メンバーを三段階に分けており、大会に出られるのはトップチーム、補欠扱いなのがセカンドチーム、年少の育成枠がジュニアチームで、バルトはセカンドチームから始めることになっている。
〈ストーリー〉
◆原作◆全国大会で準優勝したバルトはBCソルのスカウトを受けて現地に降り立つ。そんなバルトよりも先に、シュウはアメリカのニューヨークブルズにスカウトされ、彼の地に赴いていた。BCソルのオーナー、クリスやジュニアチームのキット、チームのエース・フリー、アウトローなシスコといった新たな人々と出会うバルト。彼を追いかけるようにしてクミチョーもBCソル入りを果たした。また、かつての仲間たちもそれぞれに海外へ進出。ダイナはフランス、シャカはブラジルのチームに所属。世界大会・ワールドリーグに向けて各自が鎬を削るが、その最中にシュウが行方不明になり、心配したバルトたちが訪れた秘密組織スネークピットにて、シュウのベイを持って現れたのはレッドアイと名乗る仮面の男だった。チーム戦に続く世界ランキング上位者による個人戦・ワールドチャンピオンシップも開始。やがてレッドアイの正体が明らかになる。
◆アニメ◆すんなりとBCソルに馴染んだ原作に対して、アニメではなかなか受け入れてもらえなかったり、いじめを受けたりするバルトだが、持ち前の明るさでチームの雰囲気を変えていくという描かれ方がなされている。ワキヤも世界進出しているが、原作ではどこのチームかは触れられていないため、アニメでは既存のチームを買収したことになっている。その他、フリーがニューヨークブルズに移籍したり、ドイツのチームに所属していたクーザがBCソル入りする、個人戦の詳細等、いくつかの設定変更がある。レッドアイについては、原作では個人戦・ルイとの対戦の最中に正体がわかるようになっているが、アニメではルイとの野試合で判明、その後、個人戦の場でもう一度戦うという流れになる。
◆登場人物◆「神」から新たに加わった人物を中心に紹介。ここで紹介していないキャラやアニメオリキャラについてはベイブレード公式ファンクラブを参照されたい。
◇フリー・デラホーヤ◇BCソルのエースでその強さは世界ランキング1位、世界のトッププレイヤー、ビッグ5の一人。つかみどころのない性格の不思議ちゃんならぬ不思議くん。付近の森に住む鹿に懐かれている。
◇シスコ・カーライル◇いろいろなチームを渡り歩き「反逆のアウトロー」と呼ばれている。皮肉屋で協調性もなかったが、バルトたちと出会い、良き仲間へと変わっていく。
◇クーザ・アッカーマン◇バルトたちと仲良くなり、ドイツのチームから移籍してきた身軽な少年。
◇キット・ロペス◇バルトを「アニキ」と慕う、スペインの常夏。
◇クリスティーナ・クロダ◇祖父から受け継いだBCソルをオーナーとして運営する少女。
◇ジョシュア・ブーン◇ハリウッドの人気スター。スカウトされ、ニューヨークブルズ入りする。ビッグ5の一人。
◇ソン・ルーウェイ◇シャカとはチームメイトで、共にビッグ5に数えられている。残りの一人はルイである。
〈考察〉
①設定と背景
学校の部活動として行なっていたスポーツで、全国大会まで勝ち進むといった内容の無印から、プロの選手として世界の強者と戦う展開になった「神」はチーム対チームの戦いという構図に於いてもアマチュアとは違う、個々のぶつかり合いが強調されている。学園スポ根物からプロスポーツ物への移行である。フリーの引き抜き騒動や、自分に合ったチームを求めて渡り歩くシスコなど、仲良しごっこでは済まされないプロの世界、また、チーム内でも各自がトップに立ちたいと切望し、抜きんでた者への嫉妬や、時には足の引っ張り合いのような事態も生じる厳しい世界として描かれるようになっている。バルトの個人戦優勝はお約束ではあるが、終盤での成長が著しく、逆に言えば、もっと途中経過で成長の度合いを上げてもいいのではと感じた。
②ファンタジーとリアル
爆ベイに対してよりリアルさが強調されていた無印だが「神」でもそれは健在で、プロ選手として成長を続けるバルトの姿を追っていくというストーリーだが、その中で突如として取り込まれたのがスネークピットとレッドアイを巡る一連の出来事である。スネークピットすなわち「蛇の穴」(余談だが、日本の漫画はこの手の闇組織を表現するのに『タイガーマスク』の「虎の穴」をリスペクトして踏襲するのが恒例であり、先人の偉大さが推し量られる)を仕切るのはアシュラム、ニューヨークブルズのオーナー・ギルデンの別の顔で、最強のベイとブレーダー育成のために組織を作ったとされるが、その目的が今ひとつわからず、尻つぼみに終わっている。
無印のレポートでも触れたように、エネルギー体が自身の存在を具現化する爆ベイの四聖獣とは違い、ベイバシリーズで表現されるヴァルキリー(北欧神話の半神、ワルキューレ)などのアバターはあくまでもベイ毎の強さのイメージである。つまり、ベイの世界観の中で現存するエネルギー体等ではなく、バトルシーンを盛り上げ、印象的にするために使われているのだが、それらの映像や、ベイ同士のぶつかり合いに稲妻が轟く、といった表現があるゆえにファンタジー色が強くなり、多少の異端な存在も周囲から浮くことはなくなる。よって視聴者はスネークピットの設定に対して、さほど違和感を抱くことなく受け入れるが、プロスポーツの選手に仮面を被った者がいたらどうかと考えると、これはかなり異質である。さらに、スネークピット内部では少年ジャンプ誌でお目にかかるような液体カプセルが用意され、レッドアイことシュウがその中に何時間も浸かっている場面がでてくる。人体実験といったこのシーンも冷静に考えると異様で、リアルの中に紛れ込んだファンタジーの居心地の悪さを感じさせる。
これはやはり伏線の張り方に問題があるというか、何の伏線もなしにいきなりスネークピットを登場させたからであり、BCソル所属以外の(直前までバルトの耳に入らないようにするため)キャラのワキヤやダイナあたりに噂話をさせるなどして、登場人物の一部と視聴者にはスネークピットの存在を知らしめた方が良かったのではないか。シュウが関わっているのはある程度まで伏せておいて、ブルーアイたちを「どこかのチームに所属していたブレーダーだが行方がわからなくなった」キャラとして取り上げればよく、イエローアイなどはのちに素顔で登場するので充分使えると思われる。ジョシュアの茶番に時間をかけるぐらいなら、もっとそういった伏線に手間をかけて欲しいと感じた。
③主人公の周囲の人々
「神」から登場のフリー、シスコ、クーザといった新たなライバルかつ仲間たちとは順当に良い関係を築き、常にキットやクミチョーたちに囲まれたバルトはシュウとの関係がねじれてしまっても孤独に陥ることはなく、多少の躓きはあっても前向きに突き進む。本人の人間性もあるが、やはり環境に恵まれていると感じる。ことに、他人に対して無関心だったフリーがバルトには心を開いたという点は大きく、Gレボ前半、今ひとつ周囲に恵まれていなかったタカオとの差、その不憫さを思い知ることとなった。
④ベイ大会の構図
世界の地域毎に行われる予選を経て、世界大会へと進む団体戦、世界ランキング上位8名による個人戦というのが原作の設定だが、アニメでは個人戦をギルデンの提案で行なうことになった、というように変更されている。アニメオリキャラや原作では大会に出ないキャラを出場させる意図があってのことだが、そのせいで純粋な試合が胡散臭いものになってしまっている。 上位8名を16名に変更すれば原作の設定のままで良かったのではないか。
⑤ライバルたちとの関係性
バルトへの嫉妬心という心の闇をギルデンに付け込まれてブルズ入りするシュウ、その経緯は原作の無印範囲終盤で描かれた。しかし、次に彼が登場した時には既にレッドアイの姿になっており、スネークピットでバルトたちと再会、さらにその次は個人戦の会場・対ルイ戦で正体が暴かれ、さらにバルトとの決勝戦で自分を取り戻し、ギルデンたちに対していわば「おとしまえ」をつける。つまり、原作ではシュウの闇落ちの最初と最後が記されているものの、途中経過はあまり詳しくはない。そこでアニメではその部分を補うために、アメリカ行きをバルトへ告げる(仲間内で回想する場面もある)移籍してきたフリーに警戒心を抱く、フリーとのバトルでさらに闇を深める、ブレーダー狩りと称して世界各地で狼藉を働くといったシーンが追加され、宿敵のルイとは機会を二度に分けて対峙している。しかしながら、バルトとの決勝戦後はあっさりと非を認めて和解、その後日本に戻って第3期の主要人物、墨江フブキと出会うところで終わっている。原作にあった、自分とバルトの考え方の違いや、そこからの反省を独白するシーン(コミックス10巻P54,55)はなく、掌返しの感がゆがめない。この部分はもっと丁寧に描かないと、なぜ彼は立ち戻ったのかの説得力に乏しく、脚本に不満を感じる。御馳走のシーンを省略してでも描いて欲しいと思った部分である。
〈所見〉
納得のいく出来だった無印と比較すると、考察の②⑤で述べた点での不満が残った。順当に成長していく者よりも、暗黒面に落ちてしまい、そこから立ち上がる者の方が描写に時間と手間がかかると思えて当然だし、もう少し丁寧さが欲しい。シュウの扱いが今回の残念な点だったと思う。次回のレポートでは第3期・超ゼツを取り上げる。
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前後編に分けるのも面倒だったので一気に書きました。4000文字超えの超長文になってしまいましたが、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。