「待って、炎呪」
マレフィが駆け寄ると、振り向いた炎呪は一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの、相手を小馬鹿にしたふうな態度を取った。
「……なんだ、おまえか」
「独りでマーダビーと戦うつもりなんでしょ?」
「おまえには関係のないことだ」
彼がそう答えるのは百も承知していたが、それでもマレフィは食い下がった。
「関係ない、なんて言わないで! ワタシにはわかっているの、あなたはこの戦いで死ぬつもりなのね。そんなことはさせない、ワタシも一緒に連れて行って!」
「それはできない相談だ。オレは誰かを幸せにできる男じゃない」
「幸せになろうなんて思っていないわ。あなたと一緒にいられるのなら、ワタシ、地獄でもどこでもついて行くわ!」
「マレフィ……」
炎呪はマレフィをしっかと抱きしめた。
「愛している。オレはもう、おまえを離さないぜ」
はい、皆様、のっけからいかがでしたでしょうか。「稀腐人のやつ、暑さでイカれたんじゃねーの?」と思いました? 暑いことは暑いんですけどね。今回の議題用にちょっとしたコント、じゃねーや、推しの炎呪クンを相手に、夢SSを書いてみました。オリキャラの名前はマレフィセント(相互フォロワーさんから貰った呼び名)からマレフィね。
ワシらが同人活動していた頃には「夢女子」はおろか「腐女子」という言葉もありませんでした。じゃあ、やおい本を創る我々にはどういう総称がつけられていたんだろ? やおい女とか女オタクだったのかな? 全く記憶にないということは、単なるオタクで済まされていたんだろうな。四半世紀前のことなんで、御存知の方はおられないと思いますが、情報がありましたら御教示ください。
それが「腐女子」という称号を与えられ、さらに「夢女子」なる人種も出現するとは……「夢女子」については改めて述べるまでもないと思いますが、ざっくり定義すると、既存の作品に於いて、自分を投影させたオリジナルなキャラを作中に登場させると共に、そこで推しキャラと恋愛関係になるなどの二次創作で満足を得る。こんな感じでよろしいでしょうか? この見解に基づいて、自分の分身であるオリキャラのマレフィを創作し、バトビの世界観の中に投入。マレフィを通じて、推しの炎呪と自分が恋愛している状況に浸る、というわけですね。
腐女子と夢女子は相反する存在ではなく、【夢】も【腐】も読み書きOKという方もおられますし、【腐】も広義に解釈すれば【夢】であると思います。ことにゼロから創る一次創作の場合、登場人物の考え方や行動には多かれ少なかれ『自分』というものが反映されます。含まれる『自分』的要素の量に差はあれど、彼らは自己投影となるわけですね。オリジナルBL小説で「自分を投影した受と、自分の好みのタイプである攻が恋愛する話」となれば、オリキャラの性別が男なだけで、夢小説として成り立つと考えていいと思われます。しかしながら、自分の創作物である一次創作はともかく、よそ様の作品で二次創作をする場合の夢小説(夢漫画というのは聞かないけれど、存在するならそれも含めて)となると、いささかハードルが高くなるような……
二次創作【腐】の場合、互いの関係性を曲げてはいるものの、登場するのは既存の人物。バトビ原作&アニメに於けるヤマトと炎呪はライバル同士であり、試合や敵との戦いを経て友情を築いたという関係ですが、そこを腐女子スコープ(突撃カ〇オくんかよ)で覗いてからの恋愛関係に落とし込む。そんな二次創作では、この二人以外に登場するのはグレイでありツバメであり、まったくのオリキャラというのは出てこないし、出てきたとしてもモブだったり、原作では登場していないが存在はしているであろう、グレイやブルの両親を設定したり、ストーリーの都合上、誰かしらの兄弟・親戚・友人などを出す、といった程度だと考えられます。
ところが、二次創作【夢】はまず、書き手を投影したオリキャラありきから始まる。これは当然ながら書いた本人以外は誰も知らないキャラだが、いきなりヒロインの座に収まった上、よそ様のキャラと恋愛関係になる。そこで、原作では有り得ないセリフが作中では自在に創作できる。そりゃあ書いた人は幸せだよね、「あの炎呪クンが私のことを愛しているって言ってくれたの❤」ってな感じ。勿論、二次創作が目溢しされている以上、書くのは自由だし、大いに堪能してください。
ワシが気になるのは「他の人が書いた夢小説を読む人たちの気持ち」。pixivを始めとして、現代には様々な投稿サイトがあり、かなりの数の夢小説も投稿されています。自分も経験しているからわかりますが【腐】の場合は他の方が描く「推しCP」の解釈が一致すると「おお、同志よ!」と、百万の味方を得た気になりますけど【夢】ってぶっちゃけ、自分の推しと、突如その世界に現れた見知らぬ女の恋愛なわけでしょ? 相手が男(自分にとっての異性)ならOKでも女(同性)になったとたん、拒絶反応が起きるんじゃないかな。公式でやられたリエナ相手でさえ不快なのに、まず読まないと思われるのですが、いかがでしょうか。
自分の推しがグレイなら「炎呪がマレフィとかってのとデレデレしていたところで、私のグレイには変な虫はついていないから大丈夫」と寛容になれますが、これ、推しが当の炎呪だったら読めます? たとえマレフィが女性に支持されそうな「いい子キャラ」に設定されていたとしても容認できない。「何、このマレフィとかいう変な女、私の炎呪にちょっかい出さないで!」と不愉快になり、ミュートなりブロックなりする流れだと推察するワシ。実態はどうなんだろう?
そもそも【夢】を書ける人って自分の女子力とか、現実の男性にモテる自信があるのかな? 推しになり得るキャラってイケメンはもちろんのこと、多くの女性に支持される魅力があるから『推し』なわけで、数多のライバルを蹴落として彼のハートをゲットする自信がないと、いくら自分が書いたものであっても、ベースはよそ様の創った世界。そこでマウントとれる展開は望めないと思うのですが。
まあ、ワシ自身は女子力低いし、そもそも二次元世界に入ってキャラと恋愛できるタイプでもない。だいたい、成人した子供がいる古腐の分際でそんなことを考えてるなよと思われるやもしれませんが、貴腐人ならぬ貴夢人?はかなりの数が存在するようですぜ、旦那(笑)。どちらにしても上記のような夢SSは嬉しいというよりおこがましく、こっ恥ずかしいだけ、炎呪に対してはヤマトとの恋愛を見守っている方が楽しいので【夢】は書きませんがね。